「本物ってどういうことだ?お前偽モンでも居るのかよ」
「知らないね!コイツほんと意味分からないことばか言うよ、やぱ消すのが一番・・・」
「ていうかフェイタンなに誑し込んでんの?はクロロのだって今言ったばっかじゃん」
「ワタシなにもしてないね!」
「ヒューウ!いっろ お・と・こ」
「・・・お前はもうずと黙てるといいよ」
「ていうかー!そろそろ帰ってきてー!」
一種のトランス状態とでも言うのだろうか、
さっきまでリアルに感じていた光景がいきなりアニメを見ているかのように感じて
文字通りぼぅっとしているところに、目の前で両手をパチンッと叩く音がして意識が浮上する。
気分はそう、ずっと好きだったアイドルに至近距離で会ってしまったような。
至近距離で覗きこんでくる真ん丸の碧色にシャルの存在を思い出して、やっと脳みそが再回転し始める。
目の前の情景を改めて現実だと認識できたところで、
3人の視線がそれぞれ別の色を含みながらもこちらに向かっていることに気がついた。
「あ・・・う・・・・え、と・・」
「・・・ねぇやっぱり頭打っちゃってどっかおバカになっちゃった?喋れる?大丈夫?」
「しゃっ喋れるよ!違うってば、今のは・・・なんていうか、何を喋ればいいのか困っただけで!」
ズレたかなり失礼な言い回しだが、純粋に心配の意を伝えてくる碧色は、お助けマンことシャルナークのもの。
フィンクスさん――自己紹介はされてないけど、ほぼ間違いないと思う――の眼はニヤニヤというか、面白いものを見つけたような顔だ。
そしてさっきからツキツキグサグサ刺さってきて痛いこの眼力は、
残るフェイタンさんのもので間違いないんだと思うのだけれど・・・
なにぶん顔の半分以上が隠れてしまっているうえ、前屈みになられてしまっているので見られていると断言はできない。
もし自意識過剰だったら恥ずかしい。
暫らく4人で無言になってしまったのだが、どうやら3人はあたしの発言を待っているらしかった。
このどうにもいたたまれない空気を打破すべく、行動を起こすことにする。
とりあえずは、勝手に入って勝手に倒れたことを謝るところから。
まだ少しズキンズキンと痛む頭を刺激しないようにゆっくりと立ち上がって、改めて三人に向かい合った。
「あ、の・・・その、なんか・・・ご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありませんでした・・・」
深々ときっちり90度で頭を下げると、また少しおでこが痛む。ああ、後で冷やさなければ。
「なんもしてないじゃん!謝るのはむしろコイツらでしょー?」
「え、でも、ほらあたしがぼーっと突っ立ってたのが誤解を招いちゃったんだし・・・?」
そこまで言ってから、金髪の存在と記憶の内容の違和感に気がついた。
「・・・あれ、ていうかどうしてシャルはここに居るの?」
「うん?クロロがアジトに居るを連れて帰ってきてほしいって。」
「・・・(やっぱり予想されてたんだ、ここにくるって・・・)」
こんな風に家出もどきして、知り合いに迎えに来させるだなんて。
これじゃあ、本当に小学生じゃないか。
家を飛び出る際のクロロの、やけに静かな瞳を思い出してまた少し涙腺が揺らいだ。
帰って、クロロにもきちんと謝らなくちゃいけないな。
「・・・クロロから伝言。『俺が悪かった。寒いから早く帰って来い。夕飯は湯豆腐だぞ』だって」
「・・・ゆどうふ・・・」
シャルがどこまで聞いているのかは分からなかったけれど、
打った頭を気遣ってか優しく後頭部に触れた手が、意固地な思考までも溶かしてくれるようだった。
「・・・素直に謝るのなら別のことも謝てほしいね・・・」
「「え?」」
シャルと二人すっかりほのぼのとした空気に移行したかと思った空間に、また現実を知らせる低い声が通る。
事の顛末に暫らく黙ることを選択していたフェイタンさんが、先ほどよりは冷静さを増した口調でそう言ってよこした。
「謝るって?だから謝るのはフェイたちじゃないの?」
「俺らも別に悪くねェだろ?さっき本人が言ったように明らかに怪しかったのはコイツだ」
「ほ、ほんとにすみません・・・」
「それとは違うね。コイツ、ワタシに貸しがあるよ」
「貸し・・・?」
「・・・お前、さきの反応だと覚えてるんじゃないのか?」
そういうとフェイタンさんは機嫌を損ねたというように大げさに肩を上げてみせた。
想像していたよりも近かった身長が、彼の印象を人間らしく、そして子供っぽくさせた。
「の反応・・・?」
シャルとフィンクスさんが頭上に?を浮かべる。
その流れに便乗して自分も己の行動を思い返そうとしていると、
短気な彼はすぐに痺れを切らしたようで、小さく「・・・・・・本」と呟いた。
「「ほん?」」
「・・・あ!え!?ああ!」
本とフェイタンさんの組み合わせといえば思い出すのはファーストコンタクト。
そうか、あのときも確かあたしはフェイタンさんにお世話になっていた。
「あ、ええと、あの時はその・・・本を代わりに取って頂いて有難うございました・・・?」
自身で言いながら、あれ、これは謝罪ではなくて感謝ではないかと疑問が浮かぶ。
するとフェイタンさんは、そんなあたしのハッキリしない物言いがまた気に食わなかったようで
あからさまに溜息を一つ零した。
「・・・お前、本気で考えて今の言葉ならホント病院でも行て頭見てもらたほうがいいよ」
「え・・・?」
「・・・代金、払た記憶あるか?」
「え・・・」
そう、いえば。
帰宅した瞬間にちらっと頭を過ったその疑問。
クロロと夕食のひと時を楽しんでいるうちにすっかりさっぱり忘れていたその疑問は。
「・・・それとも何か?お前、ワタシたちみたいにそんなナリで盗人だとでもいうか?」
「え!?ちがっ、あの!その件は本当にすみませんでした!あの時は混乱してしまって・・・」
も、もしかしなくても、代金の肩代わりをしてくれたのはフェイタンさん!?
あの古本屋が行きつけだっていう仕事仲間ってフェイタンさん!?
あの時あたしが無事に逃げられたのって、もしかしなくてもそういうこと・・・!?
サァッと顔から血の気が失せるのが分かって、先ほどよりも深く深く頭を垂れた。
勢いがつき過ぎた遠心力のせいで頭がツキンと痛んだけれど、それどころではない。
文字通り真っ青になって何度も「すみませんでした」と「ごめんなさい」を連呼するあたしに
面倒になったのか誠意が伝わったのか(恐らく前者だろうけれど・・・)
フェイタンさんは「あー、もう、もういいね。ほら。」と動物を追い払うようにシッシッと右手を振った。
「そもそもここはお前みたいな奴が来る場所じゃないね。ささとコレクションルームにでも帰るといいよ」
「フェイタン!どうしてそういう言い方するのさ、はもともと普通の女の子なんだから弱くて当たり前なの!」
「すまんな、フェイ。頭が回らなかったオレのミスだ。団員全員に伝達しておくべきだった。」
あたしがひたすらに、それこそ地面に額を擦りつけるレベルで謝り倒している中で、そのテノールは空間に浮いた。
「団長・・・」
フィンクスさんが、額を赤く腫らすあたしとクロロをみてバツが悪そうに小さく呟いた。
全力でフェイタンさんに向かっていたあたしは、そんなクロロの登場にまぁ一番最後に気がつくわけで。
「クロロ・・・」
「、またお前は・・・いや、今回は俺が悪かったな。痛むか?」
「え?ああ・・・ううん、大丈夫。」
黒い眼は目敏く額の赤みを見つけたようだった。
クロロがあたしに話しかけながらフィンクスさんとフェイタンさんにチラッと視線を寄越すものだから
あたし自身も二人も居た堪れなくなってきてしまう。
クロロのこういう空気を読まないところが、日本人のあたしにはちょっと理解が出来ない。
「あの・・・クロロ、ごめんなさい。あたし、自分の立場分かってなさすぎだよね、クロロが怒るのも当然・・・」
「いや、俺の方こそすまなかったな。一日中家に居てフラストレーションが溜まらない方が可笑しい。
暫らくは大きな仕事もないが・・・此処なら、団員が誰かしら寝床代わりにちらほら使うだろう。」
「え?」
「外出禁止令は改めて撤回するよ。此処に来れば誰かしら居る。お前が出かけたいのなら好きに来ればいい。」
クロロがそう言うと、シャルが「マジ?じゃあオレもこっちに引っ越そうかな」なとど言いながら携帯を取り出し始めた。
フェイタンさんは不満げな顔をしていたが、団長クロロの立場は大きいらしい。
この場に残る後一人、フィンクスさんは・・・?と視線を移したところで、当人がポソッと発言を零した。
「・・・いやでもまぁ、此処に来んならさすがにちょっとここまで弱すぎるのは問題なんじゃねぇ?」
その台詞に逸早く食いついたのはフェイタンさんで、
やはり本音としてはあたしがここに来るということに反対なのだという意志が伺えた。
この場に居る限り、そして団長クロロの命令がある限り
周りに団員が誰かしら居るというのであれば、下手にボディーガードを雇うよりもよっぽど安心になる訳だけど。
実はマリカタルから何千キロと離れているというこの館がある場所は、治安があまり良いとは言えないらしい。
もっと短絡的な人間だと思っていたフィンクスさんが意外にも一番冷静で、客観的でいてくれていたことに驚いた。
「そうよ。いぱん人よりコイツ弱いんじゃないか?筋肉なさすぎのプヨプヨの身体してる」
「(フェ、フェイタンさんにプヨプヨって、プヨプヨって言われた・・・!!)」
「またそういうこと言う・・・」
「ううん、いいのシャル。ほんとのことだし・・・ダイエット頑張るよ・・・」
プヨプヨ・・・ぷよぷよ・・・
その言葉がエコー最大限で脳内を自由に闊歩する。
現金なあたしの脳味噌はリピート再生するときでもちゃっかりしっかり彼の声で鳴らしてくれるのだけれど、
今はそのフェイタンさんの声が、余計にダメージとなって自身を突っついてくるのだった。
「・・・たしかに、ダイエットというよりも体力作りはしたほうがいいだろうな。」
そう零しブツブツと思考を内に始めるクロロの声も大して耳に入らず
ただひたすらにプヨプヨの4文字を脳内に生み出すあたしも、大概だと思う。
そんなあたしに追い打ちをかけるように、またあの声がこんなことを言いだすのだ。
「まーオレはどっちかってーともっと食ってもっと肥えて将来に期待させて欲しいけどな」
「お前は相変わらず巨乳信者ね。ワタシ、デブは嫌いよ」
「そーいやそうだったな」
『 デ ブ は き ら い よ 』
・・・なん、だって・・・!?
「き、嫌わないでください・・・!最低限、自分の身は自分で守れるくらいには、フェイタンさんに認めて貰えるように努力します!だから、だから・・・」
「・・・?」
「あ、あたし、フェイタンさんが(この世界のキャラで一番)好きなんです・・・!」
「「「・・・は?」」」
大事なところが聞こえていないその台詞は、はたから見たら只の告白だということにもあたしはさっぱり気付かずにいた。
ただこのチャンスを無駄にしまいと必死に食らいつくことに精一杯だったのだ。
「おいこれはどういうことだオレが来るまでに何があったんだ」
「団長顔が面白いことになってるぜ」
「黙れ質問にだけ答えろフィンどうしてこうなった誰かに念でもかけたのかおい」
「息継ぎしてくれよこえぇよ」
「ていうかフェイタン顔赤いんだけど?」
「「「・・・・・・」」」
シャルの言葉に全員がもう一度彼に目を向ける。
赤いとシャルは言ったけれど、あたしが振り向いた瞬間には服の襟にすっぽりと顔を埋めてしまっていたのでよく顔色は窺えなかった。
「フェイ・・・?」
「ば、ばばばかなこと言う奴ね!そんなこと言てワタシがほだされると思たら大間違いよ!ふざけるのも大概にするね!」
「え?いや、ふざけてるつもりは全くないんですけど・・・」
「もう口を閉じるといいね!お前と話すと苛々して心臓がもたないよ!」
「思いっきりほだされてねぇか?」
「シャル、オレは・・・」
「自業自得でしょー今回は!」
かくしてあたしのダイエット件、体力作りの道のりが今盛大に幕を開けたのであった。
← top →
+
←宜しければポチッと・・・!
14.01.10 執筆