第一章〜きっかけ〜


  
「とりあえず、一週間は念のために入院してもらいます」
 玖綱は怪我の経緯を事細やかに説明した。
 若干の美化はあったわけだが、私にとっては美化してくれて本当によかったと思う。
 なんせ自分から転げ落ちて骨を折るなんてただの馬鹿だとしか思えないからだ・・・。
しかもご丁寧に頭を強打したらしい・・・ああ、なんか自分が惨めになってきた・・・。
『先生どうもありがとうございました』
そういったのは両親だ。怪我の説明として呼ばれた私の親たちは、私の顔を見るや否や、
「馬鹿だねぇ・・・」と言った。そんなこといわれなくてもわかってるよぉ・・・
「ま、たまには休むことも必要よ」
「んー・・・皆勤賞目指してたんだけどなぁ・・・」
「あんた・・・骨折してまで、そこにこだわるのかい・・」
 母はあきれた顔をしながら、ほほえましい目でみている父に「さて、帰りますか」といって、
とっとと帰ってしまった。いや・・・父さんしゃべろうよ・・・。

「はぁ・・・」
 私はため息をついた。
 服が・・・ださい・・・。
今私は、自分の着ているシャツをみてがっかりしていた。
なんせ、無地のなんの変哲もないシャツを着ているからだ。
これ・・・他にデザインないのかなぁ・・・
さらに、肩まで伸ばした自慢の髪も、ずっと寝ていたためか、
癖がついてしまっていて少しぼさぼさになってしまっていた。
シャワーを浴びようかと思ったが、病院のシャワーはどこかわからず、
またお決まりのように誰も呼べないため、ぼーっとするしかなかった。
「2時かぁ・・」
備え付けの時計を見れば、時間は2時だった。
「暇だ・・・」
 入院した事がない人は分からないと思うが、病院とはとても暇なのだ。
まず携帯をいじるが、友達は学校だからメールを送ることができない。
勉強をしてみようにも、教科書もノートも手元にない。さらにいうなら、正直外も見飽きてしまったのだ。
 あまりに暇な私は病院を歩きまわってみることにした。実はさっき、玖綱に松葉杖を1つ頼んでおいたのだ。
「ふふーん、これなら暇潰せるもんねー」
意気揚々と部屋を出た私は2分で挫折することとなった。
ここで問題が発生したのだ。
「どうやって降りればいいの・・・階段」
 そう、初めて松葉杖を使った私には、
 階段というものをどう降りればいいかわからないのであった。
 折れているのは左足、だからまずは右手で杖を前に・・・そっからどうすればいいのだろうか・・・、
えっと左手を手すりに、次に右足を・・・こうかな?
 そうやって四苦八苦していると、
「・・・君は何をしているのかな?」
 と、玖綱が呆れ顔をしながら私の後ろに立っていた。
「いえ、外に行きたくて階段を・・・ですね・・よっと、ほ・・あわわ!」
 ば、バランスが難しい、ほっ、よっ、んーーーー。
「がんばっているところ悪いんだが・・・」
「なんでっ、すっ、か?」

「なんでエレベーター使わないのかな?」

「・・・」
「・・・」
「ですね・・・」
 私はほんとにあほだ・・・
「玖綱先生―?」
 その時、玖綱を呼ぶ声が聞こえてきて、
彼は「ああ、しまったカルテを取りに来ていたんだった」
といってすたすたと階段を下りて行ってしまった。
取り残された私は、自分のあまりのあほらしさに自己嫌悪に陥っていた。
「はぁ・・・」
その時力を抜いたのがいけなかった。
「え?」
 手すりから手がすべり、体が前に傾く、
当然もう片方つかもうにも手には松葉杖があり、支えることができない私の体は、
下へと転がり落ちたのだった。
目をぎゅっと瞑り、衝撃に備える。

 だが、いくら待っても私には衝撃がなかった。恐る恐る目を開くと、
私は宙に浮いていた。正確には斜めの状態で誰かに服をつかまれているわけだが、
「あのー・・・・非常にいいづらいのですが・・・」
 そんな声が私の後ろから聞こえてきた。
「さすがの僕でもそろそろ腕が・・・限界なんですよ・・・」
 声からして少年なのだろう。その少年が私の服を引っ張っていた。
「あわわわ、ごめんなさい!ごめんなさい!」
 私はすぐに足を下げて、一段下の階段につけて、危機を脱出した。
助かったところで、私は助けてくれた少年を見た。歳は私と同じだろうか?
 全体的に痩せていて、色が白かった。だが何よりも目を引くのは、ショートカットの髪の色だった。
「髪が真っ白・・・」
「ん?ああ、これは地毛ですよ。祖父がイギリス人なので」
「そうなんですかぁ」
 ってそうじゃない、それよりも先にいうことがあるだろ私!
「助けていただいて、ありがとうございました。」
「ん?ああ、いえいえ。困ったときはお互い様ですよ」
と少年は笑い、私は恥ずかしくなって下を向いた。
「ところで、どこかへ行こうとしていたんじゃないんですか?」
「え!?あ、は、はい、ちょっと外へ行きたくて・・・」
 言えない! 暇だったから外に行こうとして、階段から落ちそうになったなんて!!
「ふむ・・・」
と少年は少し考えた。私なんかやっちゃったかなぁ?
「えーっと・・・あなたさえよければ屋上へ行きませんか?」
少年はそんなことをいい、私は、お願いしてもいいですか?といったのだった。
ただでさえ普段から異性と会話しない私が、
会って間もない少年といきなりこんなことを話せたのはある意味、
すごい偶然であり、もしかしたら運命だったのかもしれない。きっと後から思えば、
心の隅のほうで密かにこれは運命なんじゃないの!?と思っていたのかもしれない。











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