標的204のその後・前
「君…誰? 僕の眠りを妨げると、どうなるか知ってるかい?」
とうとう雲雀恭弥までもが10年前との入れ替わってしまったのだ。
雲雀が発動させたボックスのハリネズミの球針態により、部屋がふさがれ幻騎士との直接対決はなんとか避けられた。
幻騎士が押しつぶされる危機を感じて去ったと同じように、自分達も危機的状況ではあったがランボとイーピンが見つけた隙間を抜けてなんとか敵のいない部屋に転がり込む事に成功した。
けが人を下ろし応急処置を施す。
その後に、部屋の隅に座り込んでいた雲雀に近づいた。
恭さん、と呼べばまた不機嫌になるだろうから、
「委員長、失礼します」
一言断って、その腕を取った。
何をするか説明しなかったのは、説明したら最後抵抗されて目的が果たせぬことが必至であるから。日本へやってくる前に25歳の雲雀本人と己が今場ボスと仰ぐ人に頼まれたのだ。
たとえ抵抗しても多少の傷をつけてでも、その任務を遂行するように、と。
「――何をするっ」
抵抗しようとした雲雀の身体に乗り上げる形で足で封じる。両手を使えなければ困るからだ。
そして、先ほど応急処置セットを出す際にバレぬよう手の中へ仕込んだ細い銀色のバングルを雲雀の細い腕へ通す。
通した瞬間、それは自動的に収縮し雲雀の手首のサイズぴったりの大きさに変化した。
「こんなもの、風紀違反だ」
外そうと雲雀は無理矢理引っ張るが手首の皮膚が赤く擦れるだけで外れる様子はない。
半秒も立たずに雲雀はキレて殴りかかってくる。
出来る事なら無駄に体力は使いたくないし、使わせたくない。けれど、一発目を避けたところで、バングルが鈍く光り出した。
『お、やっと来たんだな。恭弥』
バングルから聞こえた声に雲雀の動きがひく、と停止する。
「ディーノ様、完了いたしましたっ」
雲雀の意識がそれぬうちにバングルへ声を放つ。
『おう。ありがとな、テツ』
バングルからは機嫌の良い笑い声が聞こえて、雲雀の眉間はこれ以上ないというくらいシワを刻んでいる。
「どういうこと」
半眼で睨まれようとも、10年の歳月は慣れというものを作り出し、昔は怖かったその視線は今はいかほども怖くない。
『ねぇ、ママに繋がったの?』
どう説明しようか迷っていたらしいディーノの答えが聞こえる前に、幼い愛らしい声が割り込む。
『あぁ、繋がったぜ。10年前のママだ』
甘ったるくその声に返すディーノの声に雲雀の不機嫌はまた一段と増したようで、とうとうこちらへ向かってトンファを構えた。
『ねぇ、ママ。痛いところ無い? カーヤはちゃんと良い子にしてるよ』
振りかざされる直前にまた愛らしい声が割り込んで、雲雀はトンファをしまってくれた。
「あなたとディーノの子?」
至極まじめな顔で問われて、
「いえ、ディーノ様と恭弥さまのお子様、夏弥さまです」
こちらもまじめに、今年四歳になられます、と続ける前に殴られた。
『うわ、テツ大丈夫か?』
ゴキ、と殴られた音がそのまま伝わったのだろう。ディーノの慌てた声に雲雀が何を思ったのか口角を吊り上げる。
「説明してくれる?」
『あぁ、ここは10年後の世界だ』
「そうじゃなくて――」
説明をはじめたディーノを雲雀は遮り、
「どうしてあなたと僕の間に子供がいるかってことをだよ」
『ちょ、まて、カーヤが傷つくようなこというなよ』
慌てたディーノの声に、
『そうかな? いつもママ同じようなこと言ってるよ』
愛らしい声はけろっとして、残酷な事実を実父に告げる。
『えーっ、マジかよ。きょうやぁ〜』
説明も忘れて、情けない声を上げたディーノに雲雀はかなり機嫌を良くしたようで。
「かや、痛いところはどこもない。安心してよ、キミが良い子にしてれば必ず帰る」
発せられた言葉に、少なからず驚きを覚えて、それは小さなバングルを介した向こう側のディーノも同じだったようだ。
『うんっ。早く帰ってきてねー』
愛らしい声の返事に少しだけ安堵する。
入れ替わりの条件はボンゴレ守護者だけではなく、もう既にここにはイーピンという守護者外の存在の入れ替わりが確認されている。
そして、ボンゴレ日本支部には笹川京子及び三浦ハルの一般人であるはずの二人の入れ替わりも確認済みだ。
だから、その対象がいつ自分になるか分らない。
守護者である雲雀には、この異常な事態に早く慣れてもらわねばならないのだ。
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