出口のない迷路。

どこにも持って行きようのない想いは、ぐるぐると回って、また、スタート地点に戻ってくる。

南は、たぶん、オレを憎んでる。

亜久津は、オレを、一発殴りたいと思ってるかも。

けど、誰よりも、オレを消したいと思ってるのは、きっと、






酔った勢いで、そういうことになったんだから、忘れちゃえばいいんじゃない?

そう言ったけどは納得してなかったし、オレだって、自己嫌悪から抜け出ることなんてできなかった。






は、南の彼女。






そして、亜久津がヤりたいと思ってる相手。






マジメな南クンには、マジメなが似合っていて、亜久津がどうしてにそんな感情を抱いてるのか、オレには、最初、さっぱりわかんなかったけど、 だけなんだよね。

学校で亜久津に話しかける女子なんて。






で、なんで、オレはと寝ちゃったりしたんだろう?









南は地味だ。

ジミー’Sだ。

でも、オレよか背が高いし、ダブルスが強い。

東方と息がぴったり合ってる。

髪の毛がツンツンだ。

毎朝、頑張って立ててんのかと思ったら、そうでもないらしい。

クセ毛か?

(亜久津は朝から頑張ってんだろうな)

で、周りのガッコから見るとかなり特殊なウチの制服を小粋にキコナシている。

(オレもね)

ちなみに、亜久津は夏服が似合わない。



南は、自分では気付いてないだろうけど、割とイケテる、と思う。






で、その彼女であるはどうかというと、ごく普通の子で、オレとしては、 もうちょっとノリのいい、かわいくて、喋る子がいいと思うんだけど、 南にそう言ったら、お前の彼女じゃないんだからと言われた。

そりゃそうだと思ったけど、南のその剣幕に驚いた。

めったに本気で怒ったりしない南が、少し怒ってたんだ。

チェッ、て、思った。






南はイイ奴で、オレがヒマを持て余して、南のケータイに遊ぼって連絡すると、いつも付き合ってくれた。

(アイツもヒマ人だっただけか?)

でも、彼女ができてからは、断られるようになった。

―悪いけど、約束してるんだ―

ほんとに悪いなぁって口調で、でもきっぱり言うから、ああ、男らしい奴だと思った。

(男らしいって言ったら男女差別になるので…やっぱイイ奴?)

オレだって、いつもヒマヒマしてるわけではない。

オレの都合で南に電話してた。

そこで、はた、と気がつく。

オレが、南から誘われたこと、数えるほどしかない。

ていうか、2回くらいしかない。



…これは、オレの、完璧なカタオモイじゃね?









「どしたのさ?ちゃん」

「亜久津にやらせろって言われた。…ビックリした」

なんて、ストレートな奴。

「ジョーダンでしょ」

「そうだよねー、それにしても、はー」

赤くなった頬をパタパタと扇ぐは、確かに、可愛くないことはない。

「南は?」

「ウン、今日はクラス委員の仕事で遅くなるって」

「待ってるの?」

「ウン、珍しく今日部活休みでしょ。20分くらいで終るって言ってたから」

すごく、嬉しそうに話すから、オレはちょっと胸がどきどきした。

どきどきっていっても、に対してどうこう感じたってわけじゃなくて、なんか、胸が苦しくなったんだ。

の笑顔が、ただ、素直で可愛くて、で、オレは、それに、嫉妬してたんだ。

たぶん。

一番しっくりくる言葉が、それ、だった。








教室の出入り口から、南の声が聞こえた。

「何?終ったの?」

とオレは同時に振り返る。

「うん、ごめん、今日ちょっと長引きそうで…先、帰っててくれるか?」

「え…待ってちゃだめ?」

「だめ、遅くなるし、暗くなるから」

「そ…わかった」

あ、オレまで泣きそうな気分になるほどののしゅんとしたカオ。

「んじゃ、オレと一緒にかえろー」

「千石…」

南が何か言いた気な顔してたけど、オレは無視した。

「さ、かえろー、

手を引っ張ったら、に振り払われてちょっとイラっときた。

「じゃ、先に帰るね」

「うん、夜、電話する」

すれ違う時に、二人の世界を作りやがったので、オレは、ますますイライラして、 の手をもう一度握って、引っ張った。

ちっさな手だ、と、思った。

これじゃ、ラケット握れなそう、って思った。

、テニス部じゃないけど。








「千石…」

「何?」

「南と結構長いよね」

「なにそれ」

「南ってさぁ、わたしの前に女の子とつきあってたことあったっけ?」

「オレの知る限りじゃ、ないね」

「でも、よく告白されてたでしょ」

「オレほどじゃないけど」

「千石、モテるっけ?」

「何だよー、モテモテじゃん」

「えー?モテるっていうより千石から押しかけていってない?」

「これでも、毎日告白されてます」

「嘘!」

「うん、ホントは、一週間に一回かな」

「それも怪しいなぁ…」






で、は、オレに何が聞きたいんだろう。






「あっ、あのさぁ、南はわたしのこと、ほんとに好きなのかなぁ」

「好きなんじゃない?」

オレに聞かれてもね。

「じゃない?って、ねぇ、南と友達でしょ」

「友達って言っても、人の彼女のこと、オレ、関心ないし」

「冷たい…」

亜久津がのこと狙ってるのは知ってるけど。

「南って嘘つけるような人間じゃないから、好きって言うなら、好きなんじゃない?」

こんなこと、言いたくないんだけど。

「好きって、言ってくれないの」

「ほんとに?」

「うん、この頃、言ってくれない。催促して言ってもらっても嬉しくないし、黙ってるけど…」

「近頃、避けられてるって感じることは?」

なんだ?オレ、どうしてこんなにウキウキしてる?

「うん…と、それはないけど」

「あ、ないのね」






南は…きっと、のこと、本気で好きなんだと思う。

見てたら、わかる。

でも、には教えてあげない。






「ねぇ、南とはもうエッチした?」

「なっ!!ばっ!!千石っ!!」

「ふーん、そ」

ユデダコみたいになっちゃった。

は、どんな顔して、南に抱かれるのかな?

南は、を、どんな顔して抱くのかな?






ちょっとした好奇心、だったんだ。






嘘。

ふたりの間に、入りたいって、思ったんだ。

できることなら

引き裂いてやりたいと、思ってたんだ。









「ど…して…こんなこと…」

目を覚ましたが、最初に言った言葉は、それだった。

どうしてって言ったって、やってる最中だって、相手が南じゃなくってオレだってこと、わかってたくせに。

わかってたよな。

そりゃ、ふたりして酔っ払ってたけど。

オレんちの冷蔵庫に入ってた缶チューハイ、二人で半分こしただけなのに、 あんなに酔っ払うなんて思わなかった。

本当は、恐かった。

だから、酒の力を借りようと思った。

でも、自分がそんなことができるなんて、思ってなかった。

なんだかんだで、未遂に終わるもんだとタカをくくってた。

大丈夫…そう思ってた。

でも、オレの中のどす黒い思いはどんどん膨れ上がってきて、酒の力を借りて一気に外に溢れ出した。

「言っとくけど、無理矢理じゃないからね」

オレ、言い訳してる。

「わかってる…」

そして、の逃げ道をなくす。

「どうして、わたし、こんなこと…しちゃったんだろ」

卑怯なオレ。

「だから、酒のせいだって」

サイテーなオレ。

「そんなの理由にならない」

を追い詰めていく。

「オレのせいにすれば?」

オレも堕ちるから。

「千石のせいじゃない」

も一緒に堕ちようよ。






「結構、ヨかったよ」

服を着け終えたに向かってそう言ったら、は、涙を滲ませてオレをぶとうとして思いとどまった。

自分のせいだって思ってる。

自分が悪いんだって、わかってる。

口の中にひどく苦い味。

これが後悔の味っていうヤツ?









「オレから言うからね」

きっと、は黙っていられないだろうから、それなら…と思って言った。

「お願い…」

目の下にクマを作ったが、呟くように言った。

さて、南はどういう行動に出るだろう?






「今、何つった?」

「だから、オレ、と寝た」

「は?」

とセックスした」

オレの1メートルくらい後ろに、が立ってる。

ブルブル小刻みに震えてる。

「なんで…」

「別に、理由はないんだけど、酔っ払っちゃってさ」

「千石、お前…のこと、好きなのか?」

「いいや」

「じゃ、なんで、そんなこと」

「好きじゃなくても、できるだろ」

「お前…」

南は、オレの告げた事実を理解するのに精一杯で、感情が追いつかなくて、どうしたらいいのか訳ワカンナイ状態になってた。

さぁ、もうオレが誰だかわかってなくてさ、オレのこと、けんたろーって呼んだんだぜ」

「……」

「だからさ、オレとお前を間違ってたんだよ」

「違うの!!」

って、が叫んだのと、南がオレを殴ったのは、ほぼ同時だった。

「わたし、わかってたの。南じゃないって、わかってたの…」






殴られて床に座り込んだオレと、怒りに肩を震わせてる南と、顔をぐちゃぐちゃにして泣いてるを、通りかかった亜久津が、なんだアレ?って顔で見てた。








end

モドル







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