夏の露2





ひろしーどうした?大丈夫?

そう声をかけたかったけれど、そんなこと言っても何の役にも立たないことは本能的に分かっていた。

ひろしーの役にも、わたしの役にも、立たない。

言葉は、何の役にも立たない。

この目の前の一枚のふすまを開けてしまえば、いい。

そしたら、何かが、壊れる。

多分、それから、何かが、生まれる、のかもしれない。

それは、わたしが望むものだろうか。

それは、恐くはないだろうか。

それは、痛くはないだろうか。

わたしを、傷つけたりしないだろうか。






汗がぽたりと落ちた。

全然暑くないのに、むしろ、身体はふるふると震えているのに。

「なぁ…」

すごい勇気を振り絞って、わたしは向こうのひろしーに声をかけた。

…もう、今日は帰れ」

「…うん」

そう答えるしかないじゃん、そんなに静かな声で言われたら。

ひろしー…好きだよ

わたしは、口だけもごもごと動かして、声は出さずに告白した。

いつか、ちゃんと言う時のために、練習をした。






「今日も部活かぁ…」

「うん、にーにーどんどん真っ黒になるの」

縁側に座って庭に生えた雑草を眺める。

風がないから、さわとも揺れない。

暑い、夏の午後。

「ねーねーはいつも暇そうさぁ…」

「ああっ、ちゃんたら、そんなことないばぁよ!わたしも忙しい中を、ひろしーに会いに来てるんだよ!!」

わざと大袈裟に言いながら、ちゃんの肩を軽く小突く。

「ねーねーは、にーにーのことが好きなんだね」

「……うん」

ちゃんの屈託のない言葉に、わたしは素直に答えていた。

「ひろしーは、もしかしたら、彼女とか…いる…のかな?」

「…わかんない」

呟くようなわたしの問いかけに、小さな答えが返ってくる。

少しだけ風が吹いて、軒下の風鈴が、ちりんと鳴った。






今日も、会えないのかもしれない。

学校でも、見かけなかった。

こんなにしつこくて、自分でも嫌になる。

こんなに執着する自分が、嫌になる。



「…お邪魔しますよ」

静まり返った知念家の玄関の扉を横に滑らす。

開いた。

今日は、きっとひろしーはうちにいる。

勝手な確信があった。

「ひろしー…」

薄暗い廊下をひろしーを探して歩いていたら、何か自分がゾンビみたいに思えてきた。

手をぶらんと前にぶら下げて、ひろしーを求めて徘徊する。

「おーい、ひろしー…」

そう思うとちょっと面白くなってきた。

ゾンビになったつもりで、わたしは、ひろしーの部屋に向ってずるずると足を引きずって進む。

何の断りもなく、ざーっとひろしーの部屋のふすまを開けた。

「…あれ?」

誰も居ない。

雑然とした部屋。

いつからだろう、気軽に入れてくれなくなったのは。

エロ本とかエッチなDVDとか、あっても別にいいのに。

とか言って、わたしもひろしーのことあんまり自分の部屋に入れてあげないけど。

お互い様だな。

わたしは、薬草のような漢方薬のような不思議な匂いのするひろしーの部屋に入った。

ジャージが脱ぎ捨てられている。

触るとしっとりと濡れている。

「わぁ…洗濯カゴに入れればいいのに」

わたしは指先でつまみあげて、それからまた床に落とした。

静かだ。

窓が開いている。

切り取られたような真っ青な空が、そこからのぞく。

遠い遠い空だ。

外はあんなに明るいのに、この部屋は、海の底にあるみたいに暗くて静かだ。

海の底のお墓。

わたしはゾンビ。

ゆっくりと畳に横たわる。

わたしは死んでいる。

この海の底で。

遠く遠くで、蝉が鳴いているような。

ああ、意識が遠くなっていく…。





ゆらりゆらりと揺られて、海底の砂はやわらかい。

一度浮き上がった身体は、ふわりとその中に下ろされた。

舞い上がる細かい砂。

ふうっと息を吐いたら、頬を撫でられた。

ん?

薄目をあける。

「…ひろしー?」

「人の部屋で…寝るな」

「ひろしー…だぁ」

身体に回された腕を離して欲しくなかった。

やっと会えたなぁ…。

「ひろしー…」

「何?」

「会えて嬉しいさぁ」

「何言ってる…」

ずっと会いたかったさぁ。

タオルケットに埋もれたまま、手を伸ばす。

「ほっぺたに畳の跡がついてる」

だからさっき触ってたんだね。

「寝るんなら、ベッドで寝ろ」

「ひろしーも一緒に寝よ」

「誘ってんのか?!」

ひろしーは息を呑んで、それからわたしをじっと見た。

「え…?」

ひろしーの顔が赤くなっていく。

「なに…?」

ちょっと待って。

顔に影が落ちる。

ひろしーがわたしの上に覆いかぶさってる。

「え…?え…?」

顔が近づいてくる。

ゾンビが襲われている。

わたし、ゾンビなのに。

あ!喰われた。

キス、されてる。

何度も、何度も。

くちびるをこじ開けて、舌が入ってくる。

ああ、もう、なんか何もかもがぐちゃぐちゃになってる。

お互いの舌が絡み合って、歯茎まで舐められている。

口の端から零れ落ちてゆくのは、わたしの唾液。

気が付いたら、服の上から胸を掴まれていた。

痛いくらいに揉まれてる。

ああ…ああ…すごく痛い。

でも、もっと痛いことを、これからひろしーはわたしにするに違いない。

わたしは、ぎゅっとタオルケットを握る。

「手、離して」

ひろしーがわたしのシャツのボタンを外し終えて、腕を抜こうとしていた。

「や…だ」

わたしは目をつぶったまま答えた。

そしたらひろしーは、そのままブラジャーをずり上げて、わたしの胸を露にした後、その大きな手で直にぎゅっと握った。

「あっ」

指先で乳首を弾く。

「んっ」

ぐりぐりと弄ぶ。

「やっ!」

つまんで引っ張る。

「ああっ」

くちびるで挟む。

舌で転がす。

「やだぁ…」

下半身が熱くなってきた。

ねちょねちょしたものが、パンツに染みてきてるような。

軽く噛まれる。

「ああん…」

強く吸われる。

もう片方の乳房も強く掴まれていた。

手形が残ってるんじゃないかって思うくらい。

太ももをぎゅっと合わせる。

どうしようもなくむずむずしてきたそこを、触って欲しくなった。

「ひろしー…」

わたしはタオルケットを握り締めていた手を離して、ひろしーの頭を抱いた。

ひろしーの舌の動きが激しくなった。

これは堪らない。

「ひろしー…」

うわ言みたいに名前を繰り返し呼んで、強く頭を抱き締めた。

ひろしーの少しずつ頭が下がっていって、パンツのところまで行き着いた。

っ! これから何をされるのか…一瞬息が止まる。

布越しに、噛み付かれた。

「ふあぁ!」

何かが染み出たそこを舐められた。

布越しに舌の動きが伝わってくる。

強く、しゃぶられてる。

腰が自然に浮く。

「やっ、もう!」

じゅくっと中から溢れ出る。

目の端から涙が勝手にこぼれる。

と、それを舐めとられた。

「ひろしー…」

目を開けると、ひろしーの顔が目の前にあった。

口の周りが涎で光っていて、なんだか間抜けな顔だった。

ふっと力が抜けた。

…」



ひろしー、わたし、ひろしーのことが好きだよ。

ずーっと好きだったよ。



心の中で思った。

声に出しては言わなかった。

わたしは、また、目をつむった。



べったりと張り付いていたパンツを脱がされる。

外気に触れてすーすーする。

わたしは足を開いたまま、なすがままにされている。

膝を立てさせられた。

それから、指で割れ目をなぞられた。

最初は軽く。

それから割れ目を探るように、何度もなぞられる。

奥から溢れる粘液を指に絡めながら、滑らされる指。

時々、とても感じる部分に触れられて、びくんって身体が震えた。

突然、ぐっと指が押し込まれた。

「んんんっ!」

ぐりんって中をこすられた。

「いっ!」

止めてって言おうと思った時には、指は抜かれて、もっと大きなひろしー自身がぐぐって入ってきた。

「待っ…てっ!」

入り口でもう引っかかってるから!

それでも、ぐいぐいと押してくる。

「いったい!」

「わっさいっ…!やめられん」

ぐっぐっと押し込まれるようにされて、わたしはベッドの上にずり上がるようにして逃げるけれど、ひろしーの身体に下敷きにされているからうまくいかない。

「でっ、も、ちょっ!…そのまま入れないでよっ!」

「…あ…」

ひろしーの動きが止まる。

「…持ってないの?」

「平古場がくれたのがある…」

「…じゃあ使って」

「うん…」

ひろしーが名残惜しそうにベッドから離れる。

床に置かれたカバンに手を伸ばす。

背中を丸めたひろしーの後ろ姿を見たら、その背中にいっぱい引っかき傷がついていて、いつの間にやってしまったんだろうと思った。

カバンの中をもぞもぞとやっている素っ裸のひろしーを見ながら、わたしは脱がされかけていたシャツやブラを自分で取った。

「ひろしー?」

畳の上の裸のひろしーの背中に呼びかける。

いつまでもぞもぞしてるさぁ。

「どうしたー?」

「…小さくなってしまったから、うまくつけられん」

やれやれ。

ため息をついて、わたしはひろしーに近付いた。

背中の傷に口をつける。

「痛かった?」

「いいや」

舌を這わす。

ひろしーの背中がぴくりと震えた。

「しみる?」

そう聞きながらも、かまわずわたしは舐め続ける。

ひろしーは何やら前で手を動かしている。

わたしは尖らした舌で、傷を突付く。

「できた」

ひろしーがボソッと言って、それから身体をわたしから離した。

振り返り、わたしを抱き締める。

「血が、付いてた」

耳元で言われる。

「痛かったか」

「うん」

「もっと痛いかもしれん」

「いいよ」

ひろしーはわたしを抱き上げて、ベッドに運んでくれた。






「んっ!っぎ」

さっきのぐちょぐちょは半分乾いてしまっていたし、コンドームのゴムは何か滑りが悪いし、 入り口近くでわたしたちは、もう悪戦苦闘していた。

ひろしーのアレの先の方は多分入ってるようなのだが、 わたしがあんまりにも呻き声を上げるため、それ以上進めることをひろしーが躊躇していた。

「もっ、早くっ!」

同じ痛いんなら、もう早く終わらせてもらいたい。

そう思って、わたしはひろしーを急かした。

ひろしーはゆるゆると抜き差ししていたそれを、ずっと押し込んできた。

「あがっ!」

同時に腰もぐっと引かれて、正にわたしはひろしーに貫かれてしまった。

「んああっ」

目の間に火花が散った。

痛いんだかなんだか分からない刺激が、下半身でジンジンと疼く。

「んっ、あっ、はぁっ…」

その後は、ひろしーのなすがままに身体を揺さぶられて、声を上げていた。

そして、動きが激しくなってきて、身体が裂けていくんじゃないか…と思ったら、ひろしーが動きを止めた。

身体の中で、ひろしーのがぴくぴくって動くのを感じた気がした。

気のせいかもしれないけど。

それから、ひろしーの全身がぶるって大きく震えて、がくんってわたしに倒れこんできた。

「重…」

わたしはため息と一緒に、そう漏らした。






「わー…のこと、好きだ」

ひろしーが天井を見ながら、ぼそりと言った。

「ずっと好きだった」

「それって、先に言うべきじゃない?」

「わっさいびーん」

「とっても、痛かったんだよ」

「わっさい…」

「もちょっと優しくしてくれても良かったと思う」

「わっさいびーん」

「これからは優しくしてくれる?」

「…ああ」

「約束だよ」

「うん」

わたしはひろしーの手を持ち上げて、小指を絡めた。

…」

はわーのこと…

何か言いた気にわたしの名前を呼んだひろしーを無視して、わたしは目を閉じた。









モドル







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