前夜



「・・真弘先輩の馬鹿・・・・。」



私はそう小さく呟く。

誰もいない部屋、本来であれば真弘先輩がいる部屋に私は一人ベッドで蹲る。

家主は私に何も言わないで姿を消したから、残していった鍵で私は勝手に部屋に入ってこうしてベッドを陣取る。

ベッドは、真弘先輩の匂いで包まれていてまるで先輩の腕の中にいるみたいだ。

余計に苦しくなる胸を抑えて、今までたまっていた感情を吐き出す。

何も言わないでいなくなった先輩はどこにいるんだろう。

私に鍵を残してどこに行ったんだろう。

そう考えれば考えるほど涙があふれてくる。



「・・一言くらい言ってくれてもいいのに。」



そう、怒ってるんじゃない。

一言、どこに行くかいつ帰るか、それだけ言って欲しかった。

こんないつ帰ってくるのかどこに行ったのかわからない状態より、何倍もいい。

私は流れる感情を止めずに布団に顔を埋める。

少しでもいいから真弘先輩を感じたい。

そう思っていると眠気が襲ってきて、私は抗う気力もなくそのまま眠気に身を委ねた。


































「・・何してんだ?」



俺は目の前の光景に、返ってくるはずもない返事を待つ。

珠紀が蹲って俺のベッドで寝息をたてている。

確かにこの家の鍵を珠紀に渡したが、まさかこんな形で使われるとは思わないだろ普通。

祐一が暫くぶりに温泉に行こうと言って無理やり連れていかれて帰ってきたら珠紀は泣きながら寝てる。

珠紀に行き先を告げる間もなく、連れていかれたからそれでこいつはここにいるのか?

そっと珠紀の横に腰を下ろして、涙でぬれている目元をぬぐってやる。



「・・先輩のば・・・」

「ば・・?」

「・・・・・・・ばかっ・・!!!」



そう言って、珠紀は寝返りを打って俺の膝に頭をぶつける。

少し痛かったのか眉間に皺をよせているが、よっぽど疲れているのか目を開ける気配はない。

ばかってセリフにむかっとするけど、こいつらしくて笑ってしまう。

昔から俺がいなくなるんじゃないかって一人で不安になって一人で泣いて。

お前はなんも変わってないのな。

あれから5年も経っているのに、お前は相変わらず俺を心配してこうして家までやってくる。



「・・明日が式なくらい、俺だって忘れねぇよ。

 何年、お前は俺の心配して泣いてるんだよ。」



そう言って小さく笑ってしまう。

明日から、この家に二人で暮らすって言うのに相変わらず泣いて心配する珠紀に愛しさを覚える。

鬼斬り丸封印からもう5年。

あの時何も言わずに死のうとしたせいかそれ以来、珠紀は俺が何も言わないでいなくなる度こうして俺の家に来ては帰りを待っている。

珠紀の家で暮らすのが、お互い任を果たしやすいんじゃないかって美鶴が言った時、珠紀は俺の家に住みたいと言った。

どうしてかって聞いたら、いつも珠紀の家で集まっていたからたまには俺の家がいいって。

一生暮らす家なのに、こいつは俺と一緒ならどこでも幸せだからってそう笑ってた。

強くなったって言うか。



「・・ほんと、お前には敵わない。」



これが本音。

口では逆らっていても、お前がいいならそれでいい。

俺が安心する場所が珠紀だから。

お前が笑っていれば俺も幸せだと感じるから。

高校生の俺はこんな恥ずかしいセリフ言えなかったけど、今なら言える。

そうでもしないとお前は心配するから。

俺は、珠紀の額の髪の毛を払って額にキスを落とす。



「・・愛してる、珠紀。ずっと傍で守ってやるから、もう心配すんな。

 お前は泣き虫でどうしようもねぇから、俺が傍にいてお前を笑わすからよ。」



キスは、明日でいいだろ?









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