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本当のセキュリティーはコミュニティーから生まれる

モロッコにフェズという街がある。迷宮都市と呼ばれ、世界遺産にも登録されている。街の中は、狭い路地が縦横無尽に入り組みながら延々と続き、旅人にとってはまるで迷路のようだ。商店が密集する賑やかな路地を歩いていたかと思うと、いつの間にか静寂な住宅エリアや袋小路にまぎれ込んでいたり、また同じ路地に戻っていたりする。

 街全体が蜂の巣のように壁でつながっているフェズでは、家々に外観というものがない。玄関ドアが、1軒に1枚ずつ路地の壁に張り付いているだけだ。でも、その無愛想な玄関ドアを開けて1歩中に入れば、陽光まばゆいばかりの美しい中庭(パティオ)があり、豊かな居住空間が広がる。家の中心に中庭がある住まいを、コートハウスという。フェズは、たくさんのコートハウスが高密度に集積してできた街だ。

 フェズの街まるごとが、実は巨大な集合住宅と言ってよい。日本風にいえば、「タウンハウス形式」(03/03/20、03/04/23)の大規模マンションということになろう。フェズは、店舗、寺院、大浴場、公衆便所等の都市施設が多彩で、集住体として活気にあふれている。観光地ではあるけど、地域コミュニティーがいまもって有効に機能していることを、街を歩いていて実感できる。何よりも、コミュニティーをベースにしたセキュリティーがすごい。

 フェズの路地が、狭くて迷路のように入り組んでいるのも、外敵の侵入を防ぐためだと言われている。また、その1本1本の路地が、コミュニティーの単位にもなっているという。コミュニティーの共用空間である路地では、老人がたたずんでいたり、子どもたちが駈けずり回って遊んでいたり、まったく人気がなかったり、様々な光景に出あう。

 光と影のコントラスト鮮やかなフェズの路地を歩いていると、自分はよそ者で、常に誰かに監視されているという意識を不思議なくらい強く感じる。実際、家の中から路地の様子をうかがうための、のぞき窓があるらしい。路地で異常事態が起これば、一瞬のうちにその事態収拾に向けてコミュニティーが機能するだろう。侵入者に強くそう感じさせるセキュリティー管理システムが、この路地には装備されている。それが、フェズを迷宮都市たらしめている由縁だろう。

 路地空間とコミュニティー、そのハードとソフトの両面が、フェズの街のセキュリティーーを支えている。それが、住民に強い安心感を与え、豊かな生活の基盤となっている。だからであろう、路地にはゴミひとつ落ちていなくて清潔で、そこに遊ぶ子どもたちは屈託のない笑顔であふれている。その光景は、日本にもかつては当たり前のようにあった。

 僕が子どもだった頃、老人たちは、悪さはしないか危険はないかと、僕たち子どもをいつもさりげなく見守ってくれていたように思う。老人たちは、身の回りにゴミが落ちていれば拾い、見知らぬ人が現れればさりげに監視し、地域コミュニティーでの自分の役割をきちんと果たしていた。子どもは、そんな大人の視線をいつも感じながら、安心して遊んでいたように思う。半世紀近くも前になるが、僕の田舎ではそうだった。そうした地域コミュニティーにこそ、最上のセキュリティー管理システムが内在していることを、いま私たちは忘れている。

 セキュリティーについて考えるとき、安全性と安心感とは、必ずしも一致しないことを理解しておくべきだろう。二重、三重にガードしていくら安全性を高めても、どうしても安心感を得られない人は必ずいる。また、いくら安全性を高めようとしても、技術的にもコスト的にも限界はある。人は、何によって安心感を得られるのだろう。

 実は、この世で何よりも一番危険な存在は人間だ。でも、自分を守ってくれるのもやはり人間しかいない。確かなことは、安心できる人たちに囲まれているときが、一番安心だ。そんな環境は、どうしたら作れるのだろう。その試みのひとつが、大規模マンションでのコミュニティー形成支援のマッチングシステムだった。

 マンションの管理上、マンション内のどこまで他人を入れてもよいかというセキュリティー・ラインの設定は、とても重要だ。一般的には、セキュリティー・ラインは敷地境界線と重なる。でも、地域住民と一体になってコミュニティー形成をめざそうと、敷地内の広場でフリーマーケットを開催している大規模マンションもある。一時的にしろ、セキュリティー・ラインは崩れ、マンション内に住人以外の人がたくさん出入りする。でも、特にトラブルはないようだ。むしろ、顔見知りが増えて、住人の安心感は高まっていると聞く。

2004年05月07日 asahi.com

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