素敵な秘密 第2章



「ドラコ、お前も来てくれ」
そういわれるとは思わなかった。僕はその部屋に一度入ったことはあったが、そのときに「関係のない人間はこの中に入れない」と聞いた。だから今回は僕は入れてもらえないと思ったのだ。
魔方陣の間は、前回入ったときと同様に、床一面に描かれた魔方陣が不思議な色をして輝いていた。ハリーははじめて入ったので、前回の僕のように、その妖しい美しさに圧倒されていた。ハリーが魔方陣の中に入ると、輝きが一層強くなった。
「うわっ…なに?」
「お前を歓迎しているんだ。さあ、真ん中にたって、俺がさっき教えた言葉を唱えてごらん」
「う、うん…」
ハリーが魔方陣の中央に立つと、輝きより強くなった。僕はその光がまるでハリーを包み込むような形を成し始めたのに気づいた。僕もシリウスも魔方陣の中に入っているので、その光に包まれる形になっている。金色の光はどこか暖かく、僕たちを安心させた。
「僕の名前はハリー・ジェームズ・ポッター・グリフィンドール。この国を作るもの、この国を守るもの、この国を正すもの、この国を継承するもの」
光が少しずつ熱くなっていく。光は魔方陣が発しているように今までは見えていたが、今はまるでハリーが発しているようにも見える。いずれにせよその光が眩しくて僕はほとんど目を開けられなかった。
「僕はグリフィンドールの血を引くもの、この国の王となるもの…!」
熱い!まるで業火の中に入れられたみたいだ。それに、なんだか体がふわりと浮いたような気もする。ようやく足の裏に確かな床の感触を感じたところで、僕はゆっくりと目を開いた。
そこはもう魔方陣の間ではなかった。確かに魔方陣は床に描かれていたが、あそこには窓も何もないはずだった。だけど、今、僕たちの目の前には壁一面に描かれた、丸天井の一番上まである大きなステンドグラスがあった。今にも飛び立ちそうな不死鳥と、その足元には4匹の動物が不死鳥を見上げるようにして描かれている。獅子、鷲、穴熊にそして蛇…朝日の輝きを受けたステンドグラスは、色とりどりの光を僕たちに投げかけていた。体中にステンドグラスの色を浴びていたハリーは、彼自身もぼんやりと輝きながらも目の前の神がかった芸術に見とれていた。
「ここは魔方陣の間の上にある…つまりこの城の一番上にある継承の間だ。そして…俺はこれを見るのは人生で2度目だ」
シリウスは目を細め、懐かしそうに不死鳥を見つめた。そして僕らのほうへ向き直って、
「これを見れるのは継承者の特権だ。さあここからが本番だ、ハリー。ドラコ、手を貸してくれ。お前の力が必要なんだ」
僕たちはハリーを囲んで手を繋いだ。体の中が熱くなる。奥のほうから何かがこみ上げてくる。そしてほのかに緑色の光が僕と、そしてシリウスから発せられた。シリウスは顔に小さな汗を浮かべ、しだいに苦しげな表情をするようになっていった。
「シリウス…?」
「俺は自分の血を…ブラック家の血を嫌い、封印していた。だから本来なら魔法は使えないんだ。でも今回は特別。ドラコの血の力を借りて、俺の血を解放する。ドラコのスリザリンの血は、俺の血に刺激を与え、力を活性化させるから、封印が解きやすくなる。ハリー、俺が合図したら、お前も、自分の力を最大限まで引き出すんだ。出来なくてもそう念じるだけでいい、俺が手伝いをする。こうすることにより、お前は初めてこの国の王になることが出来るんだ」
「自分の力を最大限引き出す…?」
「ああ、この国全体にお前の力を行き渡せるんだ。この部屋ならそれができる。それをしなければ、この国の王にはなれない。これはこの国とお前の契約なんだ。だから魔法が使えないと国王にはなれない。そしてこれは、創設者の血が2種類以上ないと出来ない儀式なんだ」
シリウスの息が上がってきた。苦しいのだ。みてるとこっちまで息苦しくなってくる。ハリーは緑の光に囲まれながら、戸惑ったように僕とシリウスを交互に見ていた。だが、シリウスの苦悶の表情を見て、次第に決意をしたようだった。
「…よし、準備が出来た。いまだ、ハリー!」
ハリーは力強く頷き、そして目を閉じた。
ハリーの体の光が少しずつ強くなる。まるでさっき、魔方陣の間にいたときのように。だけどそのときの光と今の光はちょっと違うようにも思えた。何がどう違うのか、僕にはわからなかったけれど、その光は熱くはならず、まるで母親に抱かれているような心地よい温度で、まずこの部屋を暖め、そして光はどんどん丸天井に集束されていった。
光は天へ向かい、そして分散された。光は国中に余すところなくばら撒かれ、ステンドグラスの反対側にあったテラスからそれを見た僕たちは、国中がぼんやり光っているように見えた。
「国王、ハリーの誕生だ」
光は次第に治まっていった。

民衆の声がする。期待に満ちた声と、前向きな笑顔が溢れている。
「さあハリー、早く」
リーマスは一足先にテラスへ出てハリーを促していた。正装をしたハリーは背筋を伸ばし、促されるままテラスへ出る。すると人々の声が一段と高くなり、ハリーを歓迎する音楽も流れた。
僕はその後姿をじっと見つめていた。
凛とした姿は10歳になったばかりの少年とは思えない。そこには自分の立場をしっかり理解している青年のような雰囲気も感じられた。抱き合って眠ったのはつい昨日のことなのに、それはもう遠い過去のようだ。
でも、それでいい。
シリウスがよく通る声で民衆に向かって何か言う。するとまた音楽が鳴った。大臣が掲げるようにして持っていた真っ赤なガウンがハリーに着せられる。そしてハリーがそのまま膝をつくと、ついにその頭に、リーマスの手から王の証である王冠が授けられた。
湧き上がる拍手、感極まった人々の声、ハリーが立ち上がり民衆に向かって礼をすると、それはさらに大きくなった。ハリーの後姿は眩しく、僕は見ていて胸がどきどきした。
ハリー、僕は父上の頬にさよならのキスをしたときから、或いはリドルに杖を向けたときから、牢屋にハリーが来てくれたときから、思っていることがあるんだ。それはすでに固い決意となっていて、それは僕の人生ほとんどを決めてしまっていた。
これからも僕たちはいろんな事があるだろう。いろんな事が過去になり、思いがけない未来が訪れる。でも、僕はハリー、君の傍にいる。君の傍から離れない。どんなときでも、今みたいに、君の半歩後ろから見守っている。
「ハリー、そしてこれは君の父親からの誕生日プレゼントだ」
シリウスがウィンクすると、ぽんぽんと空から軽快な音がした。見ると、虹色の光が空で花が開くみたいに弾けていた。
「これがジェームズのほぼ一生を使って作られた魔法だ。ジェームズの血、そのものに封じ込められていた。小瓶に入っていたそれを、俺が今あけた」
それは夜まで続いた。夜になると光は一層綺麗に輝き、さまざまなかたちに上がるそれは見るものを飽きさせなかった。
「ハリーの誕生日のために、身を削って作った魔法なんだ」
リーマスはシリウスの背中に腕を回した。彼は最初びっくりしたようだったが、すぐに切なげに微笑んで、リーマスの肩に手を回した。
「馬鹿だよな、ジェームズは…」
「…そうだね」
真夜中まで続くジェームズの魔法、花火を見ながら僕らは寄り添った。ハリーはもうこの国のすべてだった。しかし、僕の全てでもあった。彼こそが僕のふるさとであり、僕の帰るべき場所だ。だから僕はハリーの傍を離れたりしない。そう考えながら、すぐ横に感じるハリーの体温を愛おしく感じた。

ハリー。

もしかして君も今、どこかでこの光景を思い出したりしているのかな。

僕はこのとき感じた気持ちも、君の肌の感触も、全て思い出すことが出来る。思い出さずにはいられないんだ。父上の手のひらの感触もいまだに忘れられないが、このときの全ても、僕の体全てに刻み付けられている。
次々打ちあがる花火を見ながら、ハリーは一体何を考えていたのだろう?戴冠式の凛々しい表情も、このときの切なくも見えた表情も、僕ははっきりと覚えている。ハリー、君もそうなのだろうか?君もはっきりと覚えていて、そして今思い出してくれているのだろうか?
もしそうじゃないとしても、僕は君とのことを全て思い出すことを止められないだろう。
君の匂いに包まれながら。
戴冠式のときの、君の後ろ姿を思い浮かべ、僕は僕との約束を破った。



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モドル



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