残された部下と女





一度でいいから来てみたかった、こぢんまりとしたパスタがおいしいと評判のお店。

マフィアが行くような高級店ではないが、部屋も仕切られているのでプライベートは守られる。

私は白いワンピースを着て、スクアーロはダークスーツ。少しお店の中の雰囲気には浮いていたけど、予約していた奥の個室に通してもらった。

でもこんな小さな店・・・ザンザスとなら絶対に来れないなぁ。と思いながら、私にの向かいに座る銀髪の人とワイングラスを重ねた。

乾杯の合図、高い音が鳴る。こうして会うのは、3度目になる彼。1度目はザンザスと会えなくなって1ヶ月後、それから1年後、そして今日。

もう、ザンザスが消えてから2年も経とうとしていた。


「調子はどう?忙しい?」


「あ゛ぁ、まぁまぁだ。お前は?」


「私も普通かな。悪くもなく、良くもなく」


「そうか」


「・・・・ねぇ、ザンザスは死んじゃったの?」



初めは死んだなんて信じられなくて政治家とか派閥抗争とかで重要人物を殺しちゃったから、雲隠れでもしているのかと思っていた。でも1年経っても、2年経っても彼の消息が掴めない。

最後にあったザンザスは、ひどく荒れていた。私のことよりも怒りに捉われていて、会話すらできなかった。一体何があったのかは掟があるとやらで教えてもらえなかった。

生死さえも微妙なものだ。スクアーロは、「忘れろ」と言い切ってミディアムで焼いた牛肉料理に手を出す。

会うたびに生死を確認して、スクアーロに同じ言葉を言わせていることに気付いて厭味な女だなぁと自分でも思う。

しかも未だに死んだザンザスを愛してると言いながら、別の男と付き合ってるなんて。昔の私なら到底信じられない、今の私。



「ところで・・・お前はあの男のどこがいいんだぁ?」


「顔」


「っう゛お゛ぉい!」


「だ、大丈夫?ほら、ワイン飲んで」



即答で「顔」と言った瞬間に、スクアーロは喉に肉を詰まらせたようでゴホゴホと咳き込みながら、ワインを飲んで流し込んだ。

心配そうにスクアーロを見ていると、なんて女だという怪訝な表情でナプキンで口元を拭いたスクアーロ。


「それだけかぁ?」


「顔っていうか、あの笑顔が大好きだったのよ。ほら、よく一般的に言われるいい男って、優しい、面白い、格好いいとか、心が広いとかじゃない?

 でもザンザスって優しいどころか暴力的だし、面白いどころかそれほど喋らないし、・・・・顔は・・・凶悪だけど笑うとキュートなのよ。でも人の言うことに耳もかさないし」


「ひでぇな」


「ひどいのはザンザスよ。他の男と付き合い始めてからやっと、普通の男の基準がわかったの。普通の人と口喧嘩はしても殴られたことないもの。

 それに、ちゃんと好きって伝えてくれるし。今から思うと、ただヤリたいだけに利用されたんじゃないかって思うし。でもたまに優しくされると、愛されてるんだーって思っちゃったの。

 これってダメ女の典型なんだよねー。わかってても・・・あのザンザスに優しくされると、期待しちゃってさ・・・」


「ふぅん・・・ナニが良かったとかは?」



今度は私が噎せる番だった。ちなみに食べていたのはトマトとナスのガーリック風味パスタという、デートには食べちゃいけないようなセレクト。

相手がスクアーロだったから、気にせず頼んだものの噎せた瞬間にガーリックの匂いで気持ち悪くなる。



「っ・・・・それで、好きになったりする女に見えるんだ?ひっどーい」


「俺にはわかんねぇな。俺が女でも、あんな男はパスだぁ、パス。お前、頭いかれてんじゃねーかぁ?」


「そんなふうに言いながら、ボス、ボスって慕ってるスクアーロも頭いかれてんじゃない?」


「喧嘩しに来たのかぁ?てめぇは」


「ただね、ザンザスを覚えてる人とこういうふうに断片的に話したくなるの。・・・・私、やっぱりおかしいのかな?
 
 もうザンザスがどんな声だったのか、思い出せないの。だんだん忘れちゃって思い出せなくなったらどうしようって」



声を思い出せなくなったら、次にきっと顔がぼやけていってとうとう思い出せなくなってしまうんだろう。

二人で撮った写真なんて一枚もないし。残ったのは、ザンザスがくれた物とか傷痕ぐらい。生きているなら、なんで姿を現さないんだろう。

あ、・・・・もしかして遠い地で捕まえた女を孕まして、そのまま結婚しちゃったとか?結婚はともかく子を孕ます・・・ってことはしてそう。

・・・・やっぱり、周りが言うように死んだのかな。でも、あのザンザスが死んだなんて信じられない。







「ってもしかして、お前の重要な話ってこれだけかぁ?」


「ねぇ、慰めるってことできないの?・・・・じゃぁ、単刀直入に聞くわ。好きな人とか、これから結婚したいって子がいる?」


「う゛お゛ぉい!?」


「私の父、知ってるわよね?ザンザスも死んだし、そろそろ婚約者を見つけろって・・・」


「なんで俺なんだぁ?・・・・それに俺になんのメリットがある?」


「メリットはないけど・・・スクアーロといると一番自然体でいれるっていうか。今更、知らない人とお見合いなんて嫌」


「そりゃぁ、友達だからだろぉ?平気でニンニク料理食べる女なんて、ご免だぁ」


「なによソレ!だったらパスタがおいしいからってこの店に連れてきたのに、肉料理食べてるスクアーロも失礼でしょう?」


「とにかく、ボスのことは忘れろ。さっさと見合いでも何でもして良い男でも捕まえろよ」



本当はボスの生死を知っていながら、俺はに忘れろしか言えなかった。ボスはともかく、この女は人並みに幸せになる権利を持っている。

この先、何年、何十年いつ戻るかわからない、しかも一生凍結したままかもしれない男を待てとは言えない。

待つよりも新しい男を見つけた方が、この女にとっては幸せなのだ。わざわざ死んでないと言って、この女の人生を振り回すことをする必要はない。

それに、ボスには女などいくらでもいるだろう。たとえ凍結から目覚めて、この女の元に来るとは限らねぇ。それなら、他の男と一緒になった方がいいだろう。

・・・ってなんでこいつに気ぃつかってんだぁ?俺・・・。



書いてみたかったネタと・・・すっごい遠くかけ離れちゃった
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